―社会理論と経験的社会研究
タルコット・パーソンズ後 50 年
あるいは、ある大学教員人生
17.『石原慎太郎の社会現象学』
1990年代から東京都をフィールドにして社会調査を、当初は郵送留置調査、そののち郵送調査とせざるをえなかったことは先述したが、それはさらにネット調査となっていくことになった。そして1999年以来、東京都知事は、石原慎太郎が4期にわたって務めることになり、とりわけ都知事選挙後に、その投票意識調査を、パネル調査として繰り返していった。
なぜに世界都市博覧会中止を公約にした青島幸男知事が当選するも1期4年で終わり、イデオロギー的には反対の石原が当選し、最終的には4期にわたって選ばれたかという問いである。しかしながら、この問いは、社会調査ではわからないことがわかった。石原慎太郎自身を、どうして、そのイデオロギーとはまた別の水準で好意的に受け入れるのかという問いが浮かんだ。
結果、調査方針を大きく変更し、作家石原慎太郎を徹底的に調査していくことになった。参議院議員に始まり、衆議院議員、東京都知事には実は5度立候補し4度当選という、他に同時代人を見つけるのが難しい、この戦後日本を表象している人を徹底的に調査することにし、この作家、政治家の膨大にある著作を収集し読み通していった。
その成果が、『石原慎太郎の社会現象学 ―亀裂の弁証法』(東信堂 2015年)である。この本は、大いに話題ともなり、私はテレビの取材を受けたり、さらには「金スマ」にも出演することにもなった。面白い経験であった。『石原慎太郎 ―創られたイメージを超えて 戦士か文士か』(東信堂 2016年)で、そのエッセンスをまとめることもできた。
さらに有り難いことに、石原慎太郎氏自身とも、何度となく、お話しをすることができ、非常に多くのことを教えられた。
いろいろな手法で小説を書かれる石原氏であるが、とくに一人称小説が得意だと感じたので、初めてお会いした時、「田中角栄についての評価が、時が経つにつれて大きく変わっているように感じますが、田中角栄について一人称で小説を書かれたら、きっと面白いです」と言ったら、子どものように顔が輝き、「グッドサジェスチョン」だと返された。
そしてそれから8ヶ月ほどで、『天才』(幻冬社 2016年)を発表され、これは文庫本とともにミリオンセラーになった。たいへん貴重な体験をさせていただいた。
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