フィールドとアーカイブ

―社会理論と経験的社会研究
タルコット・パーソンズ後 50 年
あるいは、ある大学教員人生

18.フル・オンデマンド講義
 1996年、西本武彦第一文学部長(のちに教務担当常任理事、副総長)のもと学生担当教務主任に就いたとき、最強の副主任兼築信行先生(日本文学)とともに断行した、主要な仕事は早稲田祭正常化、ミルクホールならびに0番教室の正常化という、早稲田大学が大学紛争時代から引きずったままの不規則な諸問題であった。


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 ただ、その一方で、西本学部長、ならびに高木直二第一文学部事務長(のちに理事)は、「文学部情報化計画」と称して、それまで自分たちの学部のホームページさえなかった第一、第二文学部の情報化を驀進させた。


 ウェブページには代表的教員の研究成果開陳、企業と組んで英語教育の新展開、衛星をつうじての遠隔教育などを試み、そのひとつに、現在では、とりわけコロナ禍以降、一般的になった遠隔教育を、20年以上前に先駆けて実践した。


 そんな中で、いわゆるオムニバス講義を、インターネットをつうじたフルオンデマンド授業で行うというプロジェクトに加えてもらい、3回分の講義を作った。


 これが始まりであり、それから10年を経て、2009年、文化構想学部のさらなる展開に合わせて、新たに考案した講義「現代中欧世界の歴史 ―都市ウィーン」を手始めに、続いて拙著『理論社会学』をもとに「社会システム論」、さらに「社会理論」については、『石原慎太郎の社会現象学』をもとに、フル・オンデマンド講義を制作し、どれについても、3年から4年のインターバルでリニューアルしながら続けていった。


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 大教室での講義とは異なり、ネットを介してではあるが、疑似対面関係であり、かつ各回、小テスト、課題小論文などを組み込みながら進めていく講義は、大いに意味があったと考えている。全学オープン科目として、2016年度の「社会理論」は、700人を超える受講者を記録した。


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 政治経済学部から先進理工学部まですべての学部学生と接することができたのも素晴らしかった。


 当然、こうしたオンデマンド講義は、かつての通信教育と同様で、受講側の熱意が不可欠であり、どの講義も、いい加減な受講のために履修者の3分の1が落第するものではあったが、他方で、全学のたいへん優れた学生と接することができ、なかには米国留学に際して私が他学部の学生の推薦書を書くという機会もあった。


 「対面」こそという意見もあるが、それを超えた新しい次元の大学授業であると思った。ただ、その必須条件は、授業に受講者をどれだけ集中させるかということだったろうと思う。 そのための工夫は重要である。


 それと、改めて思ったことは、早稲田大学には多数の学生がおられるが、「量より質」ではなく、「量が質を決める」という風土のままであるということだった。

 

 


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◇「消えゆく前に ―ウィーンの森の物語」から◇

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